「二霊二拍手!」
一話 少女霊椅譚
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「真心錬気道は気の構え。心を落ち着かせて平常を常とし、決して心乱すことがあってはなりません。神の依り代となるためには、いついかなる時も心構えを崩してはならないのです」
顔中をボコボコにされた日和は、ウソツキ。と心の中でつぶやいた。
たがいに道着に着替え、向かい合って正座で相対する。あえかはかならず、鍛錬をはじめる前に真心錬気道の理を述べる。それはもう、くどいほどに述べる。
「身体ではなく心で、相手を圧するのです。相手を呑みこむほどに巨大な気迫をもってすれば、手を交わすことなく退散することは必定。そうでなくとも弱腰になり、有利に戦いを進めることが可能となります」
道場の広さは約100坪。二人だけでは広すぎるといえる。ふるい木造建築で趣き深い建物は、毎日床磨きをしているだけあって、独特の光沢を放ち外とはまったく違う雰囲気につつまれている。
どこの道場でもこうなのだろうかと、日和は考える。この道場だけが特別きれいに磨かれているのだろうか。教室のワックスがけをしたってこんなにきれいにはならない。ひょっとして、歴史の重みというやつが実際よりもきれいに錯覚させているのだろうか。
「聞いていますか。春日君」
「はい。も、もちろんです」
日和はこのながい講釈にはうんざりしていた。もともと性格は短いほうで、正座して聞きつづけなければならないことも嫌いメーターの大きなウェイトを占めている。
それでも、面と向かって師匠の顔を拝めるこの時間は有意義に活用したい。
「本来、人は神とともに歩んできました。神とは自然。自然とは万物のすべて。八百万の神とは、自然のあらゆる事象を人格化した理。神卸とはつまり、自然の力を身に宿すことに他なりません。今でこそ人は自然の価値を失いかけていますが、かつては崇め奉り、礼をもち畏れをもって、かの怒りを鎮めてきたのです。そのためのつなぎとなる者が神主様や巫女、神職者なのです」
「うぃー、ひっく」
金剛が、道場の隅で酒盛りをつづけている。神聖な道場に酒の臭いを充満させ、上機嫌におちょこをグビリとやる。お酒はそんなにおいしいものなのだろうか。
「よそ見をしないでください」
「はっ、すみません」
「いいですか春日君。あなたは真心錬気道の次世への担い手なのです。自覚を持ちなさい」
「おっしゃるとおりです」
「まじめにお聞きなさい」
「うぃー、ひっく」
「……金剛和尚さま。道場でお酒を飲まないでください。春日君の集中が乱れます」
とばっちりを受けた金剛は、じろりと酔いどれの目つきであえかをにらうと、なにも聞かなかったようにまた酒盛りをつづけた。
この二人、実は仲が悪い。
というより、金剛のほうが一方的にあえかを嫌っている、といったほうが正しい。
「和尚さま!」
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