「二霊二拍手!」
一話 少女霊椅譚
日和は険しい目で、雨どいを見据えた。
(早く行かなければ着替えが終わる!!)
今日のミッションだ。
雨どいを伝って窓から直接あえか様の寝室へ忍びこむ。音を立てたら失敗――おそらく死亡。外から様子をうかがい、あえか様の天女のような裸体を拝むのだ。
(できるか? このオレに)
わなわなとふるえる手をにぎりしめ、はるか頭上の窓を仰ぎみる。
(今日こそは!!)
男は生きているかぎり上を目指さなければならない。なぜならそれが生きるということだからだ。目標のない明日に意味などない。目標というものは高く、気高いほどに、人の心を感動させる。世界一高い山に登る登山家に聞いてみろ。「そこに山があるからさ」と答えが返ってくるだろう。
「いざ、出陣」
管はすべりやすく、靴を脱ぐのが必須のようだ。
鼻息も荒く雨どいに手をかけた日和、持ち前の根性を発揮し、音を立てないように細心の注意をはらって這いのぼる。
もう少し、もう少しだ……
興奮が身体をつつむ。
「はー。はー。」
声は出さなかったが、鼻息が荒かった。
懸命にあがろうとするが、坂を上ってきた疲れからか、手がしびれてきた。
耐えろオレ。くじけるなオレ。負けるなオレ。この手に勝利をつかむんだ。
「ほれほれ。どうした」
下から聞こえてきた声に目を落とすと、うわばみ坊主が酒瓶とおちょこを手に日和を見ていた。
「のおっ」
手がすべった。
地面まで一直線にすべり落ち、派手な音を立てて股間を地面にぶつける。
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
押し殺した声で呪詛のようなうめき声を上げる日和に、うわばみ坊主がおちょこを差しだす。
「呑むか?」
「いらんわ!!」
「うむ。未成年が酒を呑んではいかんな」
なら進めるなよ、と思いながらも、日和は光りかがやく頭頂部を見上げる。
「いつから見てた?」
「おぬしが戦に出かけるところからじゃ」
「はぁ?」
やっぱりこのオッサンはよくわからねえ。
だが、それより重要なことがある。
「たのむ金剛サン! 後生だ! いまの見たことは師匠には黙っててくれ!!」
「なぜじゃ?」
「なぜって、師匠にばれたら」
「なにを黙っているのですか?」
冷たい冷気が日和の背中を襲った。
道着に着替えたあえかが、優しく微笑みながら立っている。
その背後に般若の面が浮かび上がるのを見た日和は、己のたどる運命を悟った。
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