「二二拍手

一話 少女霊椅譚

「パンツ? 下着のことか?」
「バッカじゃないの? ズボンのことよ! お気に入りだったのに!」
 そう言って、少女はお尻の形のくっきりしたハーフパンツの後ろを懸命にはたく。
「はぁ?」と声に出して、日和は自転車にまたぎ直した。
「じゃな。オレは行くぞ」
「待ってよ! 弁償(べんしょう)を――」
 言いかけた少女は、日和を見るなり言葉を止める。
「な、なんだよ」
 すぐさま身をひるがえすと、人通りの少ない道を急いで走り去っていく。
「……人の顔見て逃げるなよ」
 ぶすりとつぶやいた直後、後ろから「キミ!」と声がかかる。
 振り向くと、息を切らした端正(たんせい)な青年が日和に声をかけてきた。
「今ここに、サングラスに帽子をかぶった女の子が来なかったかい?」
「ああ、さっきすれ違った」
「ほんとかい? よかった。どっちに行ったかわかるかな」
「ああ、すぐそこの道を走っていったけど」
 青年は「ありがとう」と礼を言って走り去っていった。
 後には、額のキズだけが残る。
「なんなんだよ。人騒がせな」
 そう言って自転車のペダルをこいだあと、チェーンが外れている事に気づき、日和はがっくりと肩を落とした。




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