「二霊二拍手!」
一話 少女霊椅譚
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香ばしい匂いが腹を刺激する。
紙袋に入ったいくつものパンを抱え、日和は1Fの廊下を歩いていた。
袋のなかのひとつを口にくわえこむ。学食の王道焼きそばパンだ。
コッペパンにソースをからめた焼きそばをつめただけのごくシンプルにして万民の食欲をそそる最高の国民食。この焼きそばパンは、売り切れる直前の最後の一つだった。
(黙ってりゃわかりゃしねえな)
教室にもどるまでに食べ終わらなければならない。友情というものを維持するのは大変だ。
「焼きそばパン、うめえ」
芳醇な香りにつつまれる胃袋にこれ以上もない至福のひとときを感じつつ、焼きそばパンを注文したやつに頭を下げる。
(おまえらの遺志は無駄にはしない)
自分用に買ったメロンパンを当てよう、と考える。残念ながら、現時点で本日の焼きそばパンはこの地上から無くなったのだ。これは動かせない事実なのだ。
「ん?」
とおり過ぎようとして立ち止まる。
廊下からのぞく校舎の裏手に、南雲美鈴の姿がある。
「なにしてんだ。あんなところで」
南雲は校舎の影に座りこみ、熱心になにかをのぞき込んでいる。
そう言えば先にパンを買いに出かけたはずの彼女を見かけた覚えがない。
興味がわいた。
購買部のある食堂までもどった後、裏手へと出る。学生たちがたむろする中庭をぬけて、園芸部管理の学生花壇までくる。春先の花がひらくレンガの囲いの上に座る委員長を見つけると、日和はパン袋をかかえたまま近づいた。
まったく気がつかないので、上からのぞいてみる。
「あれ? 『スランプ』じゃん?」
「!」
突然降ってきた声に、委員長がおどろいた顔をあげる。
「な、なんで!?」
「ひでぇな委員長。今頃志村たち、『スランプ』探してさまよってるぜ」
うしろへ隠そうとする委員長の行動を横目に、日和は隣にでんと座る。
「な、なんのことかしら?」
「悪いことしたら素直にあやまらなくちゃいけないんじゃねえの? まじめな委員長さん」
「馬鹿にしないで!」
委員長は立ち上がると、隠したはずの『スランプ』を日和の目の前につきだした。
「かえす!」
「何怒ってんだか」
委員長の手にある『スランプ』をながめ、両腕を後頭部で組む。
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