「二霊二拍手!」
一話 少女霊椅譚
南雲美鈴。
眼鏡でお下げ髪、きっちりと校則にしたがった膝下のスカート。まるで先生から見た生徒のお手本のような言動で、周りのクラスメイトはほとんど彼女を本名で呼ぶことはない。委員長、と呼ぶほうが当を得てしっくりくるからだ。
当人はいやがっている様子だが。
「じゃ、南雲委員長。志村だって悪気があって『スランプ』を持ってきたワケじゃないんだ。わざわざオレに見せたいがためにもってきてくれたんだ」
「そう。それじゃ、悪いのは春日くん、あなたね」
「はぁ!?」
頓狂な声をあげる日和に、委員長は眼鏡を押しあげ冷たい笑みを浮かべる。
「あなたがこんなものを見たいと言うから、没収されることになるの」
「見たいなんて言ってねえよ!」
「あら、せっかく友達が持ってきてくれたのに、自分のせいじゃないと言うの? とんだ卑怯者ね」
「なんだと、このやろう!」
「ううっ、ほんとだー。春日のせいだー」
志村が恨めしそうに見上げてくるのに、リキんだ腕の力をぬく。
「なんだよそれ」
「おれはみっちーの特集のためだけに200円を支払って『スランプ』を手に入れたんだぞー。それがこんな悲惨な運命をたどるなんて悲しすぎる」
「オレのせいじゃねえよ。そこの眼鏡女のせいじゃねえか」
「わたしはクラス委員長としての責務をまっとうしただけですから」
そう言って、委員長は志村の『スランプ』を小脇にかかえる。
「オレのスランプぅ〜」
「返してやれよ! もしかしたら志村だって中身を読むかもしれねえだろ!」
「これはわたしが先生に預けておきます。返してほしいなら、溝口先生に言ってください」
キーンコーンカーンコーン……
ガラッ
チャイムが鳴るのと同時に、教室のドアが開いて担任教師が入ってくる。
「先生!」
すぐさまその教師のもとへ駆けつけ、委員長が一気にまくし立てる。
「春日くんがこんなものを学校へ持ってきています!」
「なんでオレなんだよ!」
抗議の声を一切無視し、勝利宣言のように委員長は戦利品を担任教師の目の前へ突き出す。
「あー、うん、そうかー」
1−Aの担任である溝口おどろは、無精ひげの生えたあごをボリボリとこすりながら、日頃から死んだ魚のような目を眼鏡の奥から向けた。
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