「二二拍手

一話 少女霊椅譚

「こえー、まじ?」
「まじまじ。それでもあきらめきれなくてさ、巫女様の道場に押しかけてヒヨリと同じように入門テスト受けたんだってよ」
「それで?」
 日和以外の全員が身をのりだして話に聞きいる。
「翌日事故ったみたいな大怪我して病院から出てくるとこ見た。先輩は話してくれなかったけど、一言、もう二度とからすま神社にはちかづかねー、って」
「どんなテストだろーな。ヒヨリ、おまえもその入門テスト受けたのか?」
「あたり前じゃん」
 得意そうに答える彼に、友人たちが尊敬のまなざしを向ける。
「よく無事だったな」
「怪我なんざ治るモンだろ。人生のほうはやり直しがきかないからな」
「うっわオヤジくせえ」
「どんなテストだったんだよ」
「それは、えーと」
 口に出すべきだろうか。日和は考える。
 あえか様の道場は、からすま神社という神社の敷地(しきち)にある。師匠はその何代目かの巫女で、真心錬気道の後継者は代々その地を守ってきたのだという。その敷地内にある洞窟。その中を無事とおり抜けることが入門の試験だ。
 入門試験を終えたあと、師匠から言われたことがある。
「秘密」
「ふざけんなよ」
「教えろよ」
「師匠とオレだけの秘密だ!」
 言った後、日和は自分の言葉に衝撃を受けた。
「師匠とオレ、二人だけの秘密……」
「そこじゃねえ!」
 全員からつっこみを受ける。
「なんだよおまえらうらやましいんだろ!」
「うらやましいわけねえだろ! 怪我までして女の尻なんぞ追いかけたくねえ」
「ふっふっふ。先行き見とおせねえ野郎にはオレの綿密な計画が理解できないだろうな」
「あーあ、わからないね。ヒトメボレして神社に押しかけただけじゃねえか」
「なっ! 馬鹿っ、何しゃべってんだ!」
 日和は志村の口をふさぐと、押し殺した声でつぶやく。
「ヒトメボレなんておまえ、格好悪いだろ」
「いいじゃねえか。青春だナァ」
「なぁー」
 ケタケタ笑う彼らに、ヒヨリは念を押す。
「二度と人前でそんなこと言うなよ!」
「わかったって。それよりさ、今月のスランプ、みたか?」
『スランプ』は、毎週発刊されている漫画雑誌だ。最近の人気は中世期を舞台に陰気な魔術師が殺人鬼をおいつめていく本格ファンタジーが好評を博している。ヒマをもてあました学生たちは、100円2枚で買えるこの雑誌をたいがい購読(こうどく)している。



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