「二霊二拍手!」
序 それは天上の花のような――
 まさか気づいていないよな。 
 
「(チラッ)」 
 
 !!! 
 
 目が開いている! 
 しかも! この突き刺すような冷たい視線は!! 
「春日君」 
「なにも見ていません!」 
 目をしっかりと閉じる。二度と開きませんようにッ! 
 ほう、とつややかなため息が聞こえる。 
 
「(チラッ)」 
 
「怒ってはいません」 
 怒っている。オレは直感した。 
「ほんの出来心だったんですぅ! だから破門さないでえぇぇ!!」 
「破門なんてしません。嘘をついたことを怒っているのです」 
「やっぱり怒っている!」 
「……怒ってはいません」 
 ほう、とため息。 
 わずかにひねった拍子にあらわになる白いうなじ。 
 世の男ならだれでも目を引かざるを得ないこの艶っぽさ。 
 オレなら悪魔に魂売るね。 
「……なにかまた、よからぬ事を考えていますね」 
「とんでもないっ! 誤解っす!」 
 全然誤解じゃない指摘を必死に否定する。 
「春日君。わかっているのですか。あなたはこの真心錬気道唯一の門下生。正しく理を理解し、舞技をきわめてもらわなくてはなりません」 
「もちろんですっ師匠!」 
「真心錬気道は神卸の舞技。争うことなく相手の気を納めるためにふるわれる技。そのためにはいついかなる時も平常心でいることが大事なのです」 
『真心』は『まごころ』ではなく『しんしん』と読むそうだ。 
『練気道』は気を練る道と書いて『れんきどう』。 
 気道、というマニアックな武術のさらにマニアックな一流派として存在するらしい。 
 当然、本やテレビに取りあげられたこともない。 
 秘伝の奥義といってはいささか語弊があるが、だれにも知られることなくそれでも数百年の時代を経た由緒正しい武術らしい。 
 
 そして、この女性はその正当後継者であり、オレの師匠でもある。 
 
 
 
 
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