「ファウスト〜殺戮の堕天使〜」
エピローグ
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一週間ぶりの太陽だ。 眩しさに目を細め、晴れ渡った空を見上げる。暗い地下に幽閉されていると、当たり前の光さえ懐かしい。 『LOKI』討伐後、意識を失った彼は”剣帝”に抱えられ、再度元の牢獄へと放り込まれた。 入れ違いに出てきたワーグナーに、泣きながら抱きつかれたが、蹴飛ばして横の壁に貼りつけておいた。機嫌の悪いときにそんなマネをしてくる奴が悪い。 抑留されている間、『LOKI』の犯行とされる事件が三件起きた。いずれも、少女の域をとうに過ぎた女が犠牲になったと聞く。 偽者だろう。 調べれば死刑囚が三人ほど、行方不明になっているはずだ。 一度も牢獄をでていないにも関わらず、犯行が行われたことで、彼の身の潔白は証明された。 そして再度、『LOKI』捜索の指揮をとることになった。だが生憎、もう犯行が行われることはない。 監禁状態で、『毒』の症状もずいぶんと消えた。鏡をみれば、頬の痩せこけた別人の顔がそこにある。 笑い話だ。 口元にパイプを持っていくと、懐かしい味が味覚と嗅覚を刺激する。 とりあえずはまず、ワーグナーとの約束を果たさねばなるまい。一夜とはいえ、自分の身代わりとして牢に入っていたのだ。それなりの礼はくれてやっても惜しくはない。 ゴトゴト…… 前方から馬車がやってくる。 珍しいことではない。内区では、何頭もの馬車とよくすれ違う。その中には、外区からくる馬車もあろう。 ファウストは足を止めた。 何事もなく、二頭立ての馬車は彼の横を通り過ぎてゆく。 ファウストは空を見上げた。 どうやらまだ、幻覚ぐらいは見るらしい。 「……嫌な空だ」 忌々しげな独白が、車輪と蹄の音にかき消された。 |