「ファウスト〜殺戮の堕天使〜」
三章 ある娼婦の死
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ファウスト
それは必然ではない。
たんなる偶然に過ぎない。
今見下ろしたあんた自身、当然のように持っているもの。それを羨む人間はごまんといる。
だが、ほとんどの人間はそれに気づかない。
ある瞬間に手元から離れ、自らの置かれた境遇を嘆くとき、初めてその価値に気づき、激しい後悔の念に襲われる。
あのときあーしておけば。
あのときあーでなければ。
虚しい木霊を繰り返そうと、喪ったものは還らない。
人生なんてそんなもの。
諦観の果てに辿り着く境地。そいつをこう呼ぶ。
『悟り』ってね。
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