「ファウスト〜殺戮の堕天使〜」

一章 「ファウスト」

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ファウスト

 人は今日生きていることを幸せだと思わなければならない。

 命の()は儚く、死神の一息で容易くかき消されるほどに脆い。必然たる”死”は大口をあけて、虎視眈々と獲物を待ち受ける蟻地獄のようなものだ。獲物が自ら穴の中へ墜ちてくるのを待っていればいい。

 人は死と友達にはなれない。死は絶対の服従を要求する。ナイフと鎖を手に近づいてくる相手に、握手を求める間抜けはいない。闘うか、逃げだすか、取り引きするか。そうでなければ、一生を地の底で奴隷として過ごさなければならない。

 毎日が偶然という名の幸運で、かろうじて命をつないでいることに、ほとんどの人間は、気づいていない。





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