「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「どうでしょうか?」
「いいでしょう」
 驚いたことに、如月は即答でOKした。
「そういう誠意は大好きですよ」
 にやけた口元に思わず手を当て、笑みを包み隠すシュトレイマン。
「失敬。ただ、どうやって相手をおびき出すかですが――」
「ご心配なく」
 如月は客先の注文に応えた。
「私の知り合いに、裏に通じた人間おります。それに話を通して連絡をつけて貰いましょう。向こうもまだ、国外へ逃亡するまでは至ってないはずだ」
「それはいい。素晴らしい考えだ」
 先ほどの悪態はどこへやら、如月の回答にシュトレイマンは上機嫌になっていく。
「盗まれた会社が盗んだ泥棒相手に商売に出る。実に面白いシナリオだ」
「それでは、連絡があればすぐにお知らせ致します」
 すっ、と差し出された手に、シュトレイマンは自分も手を差し出す。
 握手する二人。
「期待していますよ」
「お任せ下さい」
 まるで営業みたいな口ぶりだ。呆気にとられていたナムは、はたと気づいた。
 自分のデスクの上に琥珀色の液体が所在なげに雫を受けている。
 こほん、と咳払い一つ。
「コーヒー、飲みますか?」
 すっかり出来上がったコーヒーに、全員の冷たい視線が突き刺さった。

 その日の夜。
 帰宅した社宅マンションにて。
 天井すれすれにまで届く天蓋てんがいベッドや衣装ダンスが運び込まれたリビングを素通りし、早々に自分のベッドへ潜り込んだナムは、頭から布団をひっかぶって速攻でふて寝した。
 その様子をエプロン姿のみゅみゅが戸口から心配そうに見ている。
 愛妻料理はまたしてもナムの口に入ることはなく、犠牲者は若干2名で事なきを得た事実は、ドクしか知らない。

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