「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

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故郷クニでは”カムイ”と呼ぶそうです」
 岩陰に身を伏せ、M760G軽機関銃の感触を確かめる。銃身に触れると汗ばんだ手が吸い付き、じゅわりと火傷しそうな熱を感じる。
 闇が光り、コンクリートの壁や地面に音が弾ける。
 大きく穴を開けたのは、リニアレールガンの加速弾だろう。
 硝煙と土の焦げる匂い、さびた鉄の香り。
 立ち上がる黒煙と彩る鮮やかな紅の炎、幾つも横たわる人の骸。
「カムイ、か」
 同じ瓦礫に隠れた男が薄く笑う。
 泥だらけの格好ではあるが、二人は迷彩された軍服を着ていた。
「カムイに祈るのか」
No,Sirノーサー。カムイは立ち向かうべき対象――ガキの頃、祖父にそう教え込まれました」
「ほう」
 ガシャン。
 飛び出して軽機関銃の引き金をしぼる。十数発の弾幕が3名の歩兵に命中。
 再び瓦礫の壁に隠れると、銃弾のやぶすまが津波のように襲いかかる。
「そんな重いもの、撃つ前にやられるぞ」
「数打ちゃ当たりますよ」
 大声で怒鳴らなければ会話が成り立たないほど、周りは銃撃と騒音の嵐だった。彼ら二人でなく、多くの同志がこの戦場のさなかで戦っている。
 マシンガンベルトをセットしている間に、敵兵士から奪ったAK47を手に隣の男が立て続けに3回音をだす。
 3人の歩兵に命中。
「さすが、隊長」
 男が僅かなしわを見せる。
「行ってみるか」
「どこへです」
「お前の故郷だ」
 ははっ、と汚れた顔を向ける。
「気が早いですね。帰れるかどうか分からないのに」
「悔いが多ければ死ぬに死ねん」
「名言です」
 目を向けた先で無残に転がる屍を見据え、口を開く。
「じゃぁ俺、旨いカニ料理、ごちそうします」
 息を大きく吐き、高ぶった心を静める。
「ええ、奢りますよ。絶対。約束します」
「そうだ。戦場は死ぬところではない。生き残るところだ」
 上から降ってくる力強い言葉に、思わず笑みが浮かぶ。
「生き残って、俺に奢れ。たらふく食ってやる」
Yes,Sirイエス・サー!」

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