「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

 ルーペを置くと、店主はあえかのほうを向いた。
「あれはお前のさがし物ではない」
「そうでしたか」
 ほっ、と胸をなで下ろす。
「では、呪物のご相談ですね。どちらにせよ、お引きとりすることに変わりありません」
「嘘を、ついたか」
「私は嘘などついていません!」
 じろりと睨まれ、咄嗟の行動を恥じた。
「すみません、おおきな声を」
「ふん」
 不機嫌な顔のまま、店主はカウンターに並べておかれた売り物のキセルを一本つかみとった。
 小皿を引きよせ、中から乾燥した煙草(たばこ)をつまみ、ほそながい胴体のキャップに押しこむ。
 マッチをカウンターにこすりつけると薄闇に火がはじけ、煙草に近づけた。
 灯火からゆるゆるとけむりが上がる。
「また明日来い」
「え……」
 きょとんとするあえか。
 怒らせてしまったのだろうか。
「はやいうちに処分されたほうがよろしいかと……?」
「店じまいする。出ていってくれ」
「理由は? なにかあったのでは?」
 せっかく来たのに、追いかえされるなんてかなわない。
「なんでもない。帰れ」
 つき放すように会話を切りあげられ、強引に追いだされた。
「ピシャッ」と音が鳴るほどに、入りぐちの戸が閉じられる。
 途方にくれ、あえかは頭上の看板を見上げる。
「……なんなのよ、もう」
 深いためいきが後につづいた。



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