「二二拍手 巻之二」

第一話 出会いは突然に

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 自転車ってのは、押すものじゃなくて乗るものだって思うんだ。

 ゼェ……ゼェ……

 坂。
 鳴神坂(なるかみざか)という。
 むかしむかし、この辺りには怒りっぽい神さまがいて、雷ばかりを落としていたからそんな名前がついたって話だ。
 あいにくと本日は晴天。
 夏にふさわしい紺碧(こんぺき)霹靂(へきれき)
 雲ひとつない空には、雨のあの字だって見かけられない。
 ピーカンな空は、眩しいばかりの太陽がこれでもかと燦々(さんさん)輝いている。

 ゼェ……ゼェ……

 自販機なんて甘えたものはここにはない。
 あるのは永遠につづくかと思われる(みどり)と――その先にある、神社。
 からすま神社という。
 神社というからには、もちろん巫女様がいる。
 男じゃない。巫女様だ。白い着物着て赤い(はかま)を着た正真正銘コスプレでない巫女様だ。
 正直、世界遺産の一つとして数えるべきじゃないかとオレは思うね。
「ふぅ」
 カゴに入れたスクールバッグの中から、水筒をとりだしてフタをあけると、じかに口をつける。

 ごくごくごく…

「――ぷはッ」
 生ぬるい。
 家から持参した麦茶なんざとっくの昔に品切れ中。
 校庭の水道水をたっぷり含んだ水筒は、カルキたっぷり栄養0点。
 無いよりマシです。
 リアルな話、ひとは水分80%でできています。
 だから、夏の暑さは勘弁(かんべん)だ。
 さすがのオレでも参っちまうぜ。
「フッ」
 なぜオレがこうして苦難な道を歩いているのか。
 理由はただ一つ。
 マイスイートハートがまつ愛の巣へ。男はいつだって愛する者のもとへ帰る生きものなんだと、夫婦げんかした後、しこたま殴られた親父が哀愁(あいしゅう)ただよう目で語ってた。



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