「二二拍手

第五話 ヤミヨミの神父

「馬鹿なこと言ってないで二人ともお姉様を」
「だ、誰か、鏡を……」
 苦しい息の下で、元のあえかが言葉をつむぐ。
「か、鏡っすね」
 言った後、日和は自分の足元で割れているものを見て、目をそらした。
「すいません持ってきていませんでした!!」
「鏡なら、何でもいいですか!?」
 美鈴は制服のポケットからコンパクトを取り出し、中身を開いてあえかに渡した。両面が鏡になっている。
「これ」
 あえかはそれを受け取ると、まず逃げようとした四匹の獣に向けた。
「天御鏡 吐菩加美依身多女 寒言神尊利根陀見 地の理 祓い給え 清め給え」
「うひぃぃぃぃ」
「オタスケぇぇぇ」
「イヤアアアア」
「冬眠厨……」
 四匹の物の怪が鏡の中へと吸い込まれて消える。
 次にあえかは鏡を地面の上に置き、自身の顔が映るように向きを調節すると、二礼二拍手して祝詞を唱えた。
「天御鏡 吐菩加美依身多女 寒言神尊利根陀見 天の理 祓い給え 清め給え」
 苦しそうなあえかから影絵のようにもう一人が出てくる。
 誰もを魔性に陥れるような魅力を秘めた薄衣一枚の裸女。
 鏡の上に透けて身を立てると、あえか以外の全員を睥睨し、美鈴に向けて意味深な微笑みを向ける。
 ふっ、と鏡の中へと消えた。
 一礼するあえか。
「……終わった」
 ふぅ、と息を吐き、あえかはすとんと尻餅をついた。
「美鈴さん、このコンパクトミラー、頂いても宜しいかしら」
「はい。お姉様が望むなら」
「お姉様」
 耳ざとく聞き取ったあえかは、自分を見つめる美鈴の眼差しに底知れない何かを感じ取る。
「あの、お姉様って、だれ、を」
「イヤですわそんな、お姉様」
 美鈴は手を頬に当てると、あえかのほうを見て顔を赤くした。
 目の前が真っ暗になる。
「……やはり、あれは封印を解くべきものではありませんでした」
 日和と大沢木が何か言っていることも、もはや耳には入らなかった。



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