「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

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「とても面白い方ですよ。ジャパニーズ・エクソシスト」
 闇色の神父はそう言いつつ、目の前にいる少年に語りかけた。
「巫女、ですよ」
「そう、ミコ。和式の着物に武器はオフダと棒きれ。あれで悪霊を祓ってしまった」
「そうですか」
「興味がないのかね?」
 つまらなそうな顔の少年に、神父は優しげに問いかけた。
「なぜ、その場で殺してしまわなかったのですか?」
 少年は、目の前の尊敬すべき聖職者にむけて尋ねた。
「ワタシは神に仕える者です。殺生はいけません」
「でもずいぶんと昔は、たくさん人を殺しているじゃないですか」
「いいえ」
 神父は優しく答えた。
「我々は、ただの一度も、自分の手を汚したことなどありません」
 告白にきた迷い子へ諭すように言い聞かせる。
「異端審問官、信心深い民衆の方々。神の思し召しにより、皆さん快く協力してくれました」
「ずいぶん卑怯な宗教ですね」
「ええ。それでも世界の三分の一の人間が信仰している」
「みんな馬鹿ですね」
「それは神のみぞ知る、ですよ」
 少年の素朴な感想に薄く笑いを浮かべ、闇色の神父は聖書を開いた。
「神は(のたま)えり。信じるものは救われる」
「ありふれた勧誘文句ですね」
 少年は苦笑し、折っていた鶴を宙へと放り投げた。
 ふわりと重力に逆らい、鶴は何の支えもない場所に浮かび上がる。
「信じるものが救われるなら、天上の国というのはさぞ馬鹿ばかりなんでしょうね。物忘れの老人に中毒者、生きるしか能のない下賤(げせん)な愚衆にはふさわしい生き場所です」
「だれでも自分だけは救われたいと願うものです。他人を蹴落としても」
「まるでこの地上と同じじゃないですか」
千年王国(ミレニアム)とは、地上にあるのですよ」
「どこまで行こうと人は人ですか。救えない話です」
 少年は折り鶴を指で弾き、神父の方へと進ませた。
「救いを誤解してはなりません。神は言うことを聞く人間をご所望なのです」
「それなら言うことを聞かない人間は、楽園を追放されてもおかしくはありませんね」
 少年が指さすと、鶴は内側から弾けていくつも舞い散る紙吹雪となり、盛大に辺りに雪を降らせた。
「僕が、仕留めて見せますよ」
 紙吹雪に包まれた少年は、車椅子の上で、不遜な笑みを浮かべた。
「自分の宿命すら理解しない、馬鹿なお姫様をね」



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