「二霊二拍手!」
二話 狂犬騒乱
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水蛭子山の山中に爆音が轟く。闇夜に大きく瞼をひらいたライトの巨光が互いを照らし出し、十数対のまなざしが一人の男を照らし出していた。
「野郎ども! 準備はいいか!!」
180cmを越える巨躯は白い特攻服に包まれ、『不倶戴天』の文字が背中に派手に刺繍されている。他にも『喧嘩上等』『天上天下唯我独尊』『四六四九』なぞ、日本漢字連盟が苦笑いをしそうな間違った漢字が並んでいる。
「俺たち”怒羅権救利忌”も少なくなったが、熱い破亜渡は燃え尽きちゃイねえ! 伝説残した先輩に顔向けできねえような奔りすんじゃねえぞコラァ!!」
「「おおうらぁ!!」」
ドルドルとエンジンを吹かす音が立て続けに鳴り響き、チームのテンションはいやがおうにも高まる。
「今日は週に一度の爆走天国だ! ポリ公なんぞにケツ噛まれた野郎は置いてくぞ!」
「「おおうらぁ!!」」
リーダーに気合いを入れられた各員は、一様に同じような古めかしい成り立ちをして、血走った目で叫び声を上げる。”怒羅権救利忌”はかつてここら一帯をまとめ上げた伝説の族長”イナガキ”が頭を張った族で、今でこそ人数は減ったが、かつての集会では国道沿いを数多のテールランプと爆音の波でネオンライトの川をつくり出した事もある。
珍走団などと呼ばれる昨今、暴走族は急速な過疎の波に押され、人数も今の程度になり、白い目で見られている。反社会の徒としては、そんな風潮になど腹から声をあげて吹き飛ばしてしまえという意気込みだ。
「そこぉ!! 声が小せえ!」
「押忍!!」
注意された新入りが、背筋を伸ばして声を出す。もはや応援団のような厳しさだ。
「よぉし! てめぇ等オレに付いてこい!!」
頭はめいっぱいに怒鳴り声を上げると、改造に改造を重ねてもはや原型を留めていないカワサキZU(ゼッツー)にまたがり、アクセルを握る。
「あん?」
厳めしい顔が怪しげに歪む。
愛機の照らすフロントライトの前に、誰かが立っている。
「ンだてめぇ」
「聞きたいことがある」
どこぞの馬鹿は声を上げた。
「おまえらのチームの中に、拳銃持ったガキはいねえか?」
「どこの族の特攻だ? 弘樹んとこか?」
彼は敵対する族の頭の名前を挙げた。
「またボコボコにして土産にされてぇのか? 今度は病院じゃすまねえぞ」
凄んでみせるものの、一つも臆した様子のない相手をいぶかしむ。
「…違うな」
ロン毛の少年は学生服を着ていた。まともな族が学ランなんぞを着るはずがない。
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