「二二拍手

一話 少女霊椅譚

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 放課後。
 今日も今日とて、春日日和は上機嫌だった。
 彼が上機嫌であるのは平日にしかり、さらに第1、第3土曜日も彼にとっては至福の午後がある日だった。
 和風美人の典型、(とどろき)あえかとのマンツーマンの個人レッスン。これ以上に、幸せなことがこの世にあろうか。

「なぜだあああああああああああああああ!!!」



 上機嫌なはずの彼は、からすま神社から見下ろせる町に向けてあらん限りの大声で叫んでいた。
「うるさい。こんな近くで大声出さないでよ」
 くるくるウェーブのかかった髪が跳ねる。
「オレは、オレはな。それこそ血もにじむような凶悪な入門試験を()て、ようやく師匠との甘いひとときを手に入れたんだぞ? 吸血コウモリに血を吸われ、転がっている骸骨(がいこつ)につまずき、迷い込んだ熊に襲われ、大きらいなクモの巣でさえ乗りこえて、ただ一日の、ホンのひとときのためだけに、難関を越えて『真心錬気道』への入門を許可されたんだ」
「へー。そうなんだ」
「なのに! おまえは受けたのか入門テスト!!」
「何それ」
「ゆるさねえ! 絶対ゆるせねえ! なぜこんな奴が伝統ある『真心錬気道』の門下なんすか? ちゃんと説明してくださいよ! 師匠!!」
「まぁまぁ。二人とも仲良くしましょう」
 轟あえかは手を叩き、元からいる弟子のほうを落ち着かせようと努力した。
「それではみすずさん、自己紹介を」
「えー? でもコイツだけでしょ?」
「コイツってなんだよ。オレは春日だ! 春日先輩と呼べ! いや、つーか、オレは許可した覚えはねえッ!! 今すぐその道着を脱げ!! そして志村に売りつける!!」
「いやー! 襲われる!!」
「春日君」

 

ビタァァァンッ!



「ぐふっ」
 きれいな弧を描いて春日の身体は、地面に急転直下した。
「このように、『真心錬気道』は護身術(ごしんじゅつ)としても使えます」
「わーすごーい! 無敵(むてき)じゃないですか!」
「ぐ、く、くそ」
 春日は不屈(ふくつ)闘志(とうし)で起き上がり、女性特有の共通意識で急速に仲を深めつつある二人のあいだへ割り込んだ。
「いいか、オレが一番弟子だ! 誰がなんと言おうと師匠の一番弟子はオレだ!」
「えー、でもあえかさんは」
「あえかさんじゃねえ! 師匠と呼べ! もしくはあえか様だ! それ以外は認めん!!」
 こうして。
『真心錬気道』に新たな弟子が加わった。
「今日から『真心錬気道』門弟となりました美倉みすずです、よろしくね♪」
「よろしくじゃねえよ!」
 あえかは微笑みながら、自分の弟子たちを見つめていた。
(to be continue...)



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