「二二拍手

一話 少女霊椅譚

「あ、あれ」
 後方を指し示す。
 あえかの顔が引き()まる。
「わかりました。下がっていなさい」
 カジュアルを着こなしたあえかは、それだけのジェスチャーで事態を把握(はあく)すると、二人をかばうように前にでる。
「何者かは知りませんが、この二人には手を出させません」
 追いかけてきていた影は、(りん)としたあえかの声を聞いたせいか、ぴたりと動きを止めた。
「……結界を()っていますね」
 あえかは買いものバッグのなかから一枚の紙きれを取りだし、指で(はさ)みこむと、「不ッ」とまっすぐふり下ろす。
「我乞ひ願ふ。高天原に居坐す神に呼び掛けむ。八尋白智鳥の御身土蜘蛛の糸に囚わるる我に十拳の剣の威を知ろしめし給へ」
 術式(じゅつしき)祝詞(のりと)(とな)えながら手を横に、縦に、斜めにふり下ろす。
 影がぐにゃりと曲がり、一陣の風が舞ったかとおもうと、白い紙のたばが風に吹かれて散っていった。
「な、なんすか、これ」
「式神の一種でしょう」
 あえかの答えに、日和はさらにワケがわからず「式神ってなんすか?」とたずねる。
平安朝(へいあんちょう)陰陽師(おんみょうし)が使ったというかりそめの命を吹きこむ秘技です。でもどうして……」
 あえかは日和の連れていた少女を見た。
 少女は影が消えたおかげで緊張の糸が切れたのか、全身から力をぬくと日和のほうへ倒れてくる。
「ぬおっ!」
 汗ばんだ肌に服がはりつき、こぶりな胸がわずかに見える。
「春日君、その女性は?」
「い、いえ! 怪しいものじゃないっす!」
「……今、一番怪しいのはあなたでしょう」
 うろんな目つきで見下してくるあえかに、日和は適当な質問をぶつけて話題をそらそうとした。
「師匠はなんでこんな時間に?」
「ちょっと買いものに」
 あえかはキュートな小熊のアップリケがあしらわれたトートバッグから、ふくろに入った豆腐を見せてくれた。
「明日のみそ汁に入れる具が切れていたものですから」
「さっすが師匠、家庭的っすね」
「自分で料理するのはたのしいものです。カップ(めん)ばかり食べるのはいけませんよ」
「師匠は料理できる男は好きっすか?」
「ええ。……それがなにか?」
 師匠は料理ができる男が好き、と。
 あらたな情報が日和の頭のなかにインプットされた。



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