「二二拍手

一話 少女霊椅譚

 金剛が、たいぎそうに身を起こす。
「……こんなトコロにまで、やってくるのがいるたぁな」
「そうですね。めずらしいことです」
「めずらしい? はっ! そのうちそうでもなくなるだろうよ」
「よいしょぉ」と重い図体(ずうたい)を無理矢理ひっぱりあげると、金剛は酒瓶のなかでゆれる液体をのぞいて、残念そうな声をもらす。
「ゆっくり、酒盛(さかも)りもしてられぬな」
 そう言うと、命より大事な(と日和は思っている)酒瓶を道場の床の上に置き、千鳥足(ちどりあし)で外へと向かう。
「どこへゆかれるのですか?」
 あえかの言葉に、金剛は「散歩」と短くつぶやき、ふらふらといなくなってしまった。
 あえかと日和だけが道場に残ることになる。
 チャンスだ! と日和は思った。
 あえかは日和のほうへ向くと、「では修練に戻ります」と何でもないように言った。
「じゃ、組み手を――」
「なりません。まだ精神集中ができていないでしょう」
「とんでもないっす! オレ、師匠の戦いを見ていたら、身体がうずいてたまらないんです!」
 日和は、真剣な表情で熱く語った。
 心よりも別のところが熱かったりする。
「……そうですか。やはり、わたしが見込んだだけはあります。闘いをみて闘志を(たぎ)らせることは武人の素養の一つです」
 ころりと(だま)されたあえかは、組み手を承諾した。
「では構えを――」
「うおおおおおおお!!」
「またですか」
「師匠! オレもう、辛抱たまりません!」
「あなたは何もわかっていません! いついかなる時も平常心を――」
「師匠おおおおおおおぅ!!」
 ケモノのように飛びかかる日和に、あえかは「()ッ!」と容赦ない拳をめり込ませた。
「言うことを聞かないと殴り殺しますよ」
 ぐふっ、とうめく日和。
(オレはまだ、あきらめないぜ)
 地に()した彼は、さらに決意を新たにしていた。




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