「二二拍手

序 それは天上の花のような――

 なにくそっ!
「ぬおおおおッ!!」
 その手がやわらかな風につつまれたと思った瞬間、

 

ビタァァァンッ!



 天地がひっくり返り、背中がいきおいよく打ちつけられる。
「ぐふっ」
 う、受け身すらとれなかった。
「構えがなっていません。もう一度最初から」
 伸びてきた細い腕。
 その先にかすかに見える道着の向こう。
 無防備だ。
 痛む背中を気力で無視し、あり余る生命力で立ちあがりざま手を伸ばす。

「もらったッ!」



 目指すは――チチ!!
 師匠がほほえむ。
 菩薩(ぼさつ)のような笑顔で。

「溌ッ」



 伸ばした腕がハエのごとくはたき落とされ、あらがえぬままにぐるりと回転し背中にまわる。
「いてててててててて!!」
 関節を決められて叫ぶオレの耳に、優しげなささやきが届く。
「このまま腕を折られたくなければ、きちんと構えをとりなさい。いいですね」
「ははははいいっっっ!」
 あまりの痛みに涙で視界がにじんでくる。
「よろしい。では」
 師匠が腕を放した。

「まだまだぁっ!」



 このくらいのことでオレはめげないっ!
 関節技を決めるには相手に近づかなければならないことが欠点だ。今のこの機を逃してなるモノか!
 そのチチもらっ――

「天誅!」



 拳骨でかためられた拳がめりこむ。
 露骨(ろこつ)な衝撃がほお骨まで粉砕(ふんさい)するかのごとくすさまじい破壊力をともない、頭蓋骨をゆさぶる。

 次の瞬間、オレは何度か見覚えのあるお花畑に(たたず)んでいた。



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