「キラー・ハンズ」

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       著者 藤田拙修

                                                  Sunday, April 19, 2009

 

 

 

 

 

 


ガチャッ

バタン

――ハァ、ハァ。

「ずいぶんとお急ぎのようですね」

――――!

「ひー」

「なんてね」

「そんな物騒なものはしまってはいただけませんか?」

「ここは世界一安全な国です」

「警察機構が権力に幅を利かせて民を管理下に置き」

「肥え太った官僚の豚どもが札束というエサに喰らいつく」

「言論の自由において民衆は政治を批判するものの」

「現状を打破せず日々自堕落に生きている」

「その中で」

「あなたのように平凡から逸脱した行動をとる人に、僕は敬意を表します」

「…………」

「銃を下げてはいただけませんか?」

「それ、安全装置がないんですよ」

「素人にだって弾が撃てる」

「どこから手に入れたか知らないが」

「なまじ最新の銃を持っているより」

「こういう古い銃を持ち出されるのがよけい困る」

「何しろ」

「本物である確率のほうが高いんだから」

「危ないですよ」

「人を殺すと罪が重くなります」

「銀行強盗するよりはるかにね」

「おや」

「なんてこった」

「すでにもう一人?」

「それはすごい」

「人を撃った経験はどうでしたか?」

「存外、呆気ないものでしょう?」

「人一人の命なんて、つまらないものです」

「あとは、そう」

「罪の意識を乗り越えられるかどうか」

「そこが問題です」

「一人やればあとは同じ」

「工場の流れ作業と同じようなものですよ」

「ぼくに何がわかるのか、だって?」

「ええ、わかりますとも」

「お見せしましょうか?」

「僕の銃」

「グロック22」

「元々はFBI用に開発された銃だそうだけど」

「ここの銃はとてもイケてる」

「使い勝手が素晴らしい」

「ジャムらないし」

「耐久性にも優れている」

「良い銃だよ」

「そんな安物より格段にね」

「おや」

「そんなに驚きかい?」

「ぼくが、銃を持っているのが」

「おやおや」

「困った」

「ノブがない」

「内側から開くことはできないねぇ」

――ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ

「♪とおりゃんせ〜×2」

「♪ここはどこの細道だ〜」

「♪天神さまへの細道さ〜」

「♪生きはよいよい帰りは怖い〜」

「怖いながらも――うん?」

「……参ったな」

「国家権力の犬のお出ましだ」

「一般市民であるぼくは、彼らに協力しないといけない」

「そうしないと、捕まってしまうからね」

「そんな惨めな顔をしないでおくれよ」

「あなたがどれほど哀れで可哀想な人生を歩んできて、必死の覚悟でお金を稼いできたとしても」

「ぼくにはどうでもいいことなんだよ」

「折角稼いだ金を巻き上げられ、貴方の家族が路頭に迷い、狭い豚箱に閉じこめられ、女日照りで健全から少々外れた野郎どもにカマを掘られて、娑婆への帰還が20年先までずっとくさい飯を食い続けようと」

「ぼくには関係のない話さ」

「こんな所に逃げてきたあんたが悪い」

「…………」

「そうそう」

「ここの店の名前、言っていなかったね」

「ここはキラー・ハンド」

「たった30萬で、あなたを楽にして差し上げましょう」

「さぁ、どうしますか?」

「お金ならそこに、たくさんあるでしょう?」

END




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