「キラー・ハンズ」
.第七話
著者 藤田拙修
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ピンポーン…… 「…………」 「……客じゃないな」 ピンポーン…… 「鬱陶しいナァ」 「NHKかなぁ」 「集金に来るくらいならやることがあるだろう」 「あのハゲた局長をしめあげて見せしめに絞首刑にするとかさ」 「一時期ニュースで騒がれたけれど」 「結局別の報道ばかりが時間を埋めてしまって」 「いつの間にか事件そのものが消えてしまった横領事件」 「刹那主義の時代のひずみとはいえ」 「それを利用する権力者の知恵もまた」 「自己中心的なエゴイズムに基づく腐敗した資本主義の一面だ」 「救いようのない時代だからこそ」 「救われない奴らが生まれる」 「この国の国民はみんな路頭に迷っているんだ」 ピンポーン…… 「開いているよ」 「…………」 「これは――」 「NHKよりタチが悪い」 「いえ、なんでも」 「こんにちわ。神父さま」 「今日もいい天気ですね」 「生憎、ぼくは神様を信じていないので」 「またの機会に」 「…………」 「迷ってなんていませんよ」 「迷うくらいなら、最初からこんな仕事なんてしていない」 「いえ、こちらの話」 「なんですか?」 「秘密くらい誰にでもあるでしょう」 「ゆるし?」 「ああ、あれですか」 「陰に隠れた神父が信者の悩みを聴く小さなプライベートボックス」 「聞いたことがありますよ」 「異教徒狩りに利用したんですってね」 「正直に告白した信者にずいぶん酷なことをなさる」 「神の信徒として正しい行為だったんでしょうかね」 「第二次大戦中にもずいぶんご活躍だったそうで」 「おや、知らない?」 「善人面した法皇にでも聞いてみたらいかがですか?」 「あんたらはローマ帝国の時代からそうなのかって」 「…………」 「信仰の力とは強いものですね」 「いや、ホント素晴らしい」 「殴ってやりたくなりますよ」 「すいません。本音がぽろりと」 「神様を信じられるなんてすごいですね」 「人間の五感を超越した存在を信じられるなんて」 「とても真似出来ませんよ」 「目の前にないものを信じられるのは」 「目の前の現実を否定することと同じですからね」 「奇跡を信じて伸ばした手が」 「いつになったらつかまれるものかと」 「首を長くして待っている」 「隣で子供が泣き喚こうと」 「両親が死に絶えようと」 「その信仰の前では無価値に等しい」 「汚れない心を持つ自分はきっと神様が救ってくれる」 「老いさばらえた手が地面に触れるまで」 「じっと待ち続けるなんてぼくには出来ません」 「奇跡を信じて待つくらいなら」 「ぼくは空いている手で別のことをしますよ」 「何しろ」 「両手で出来ることは祈ること以外に」 「無限にあるますからね」 「それでは神父さま」 「ぼくはこれから仕事がありますので」 「またの機会にお会いしましょう」 「…………」 「ええ」 「縁があればまた会いましょう」 ――ガチャン。 「………」 「エロイエロイレバサバクタニ」 「あんたはこの意味、理解してるか?」 (END) |