「キラー・ハンズ」

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       著者 藤田拙修

                                                  Sunday, December 20, 2007

 

 

 

 

 

 


ピンポーン……

「…………」

「……客じゃないな」

ピンポーン……

鬱陶(うっとう)しいナァ」

「NHKかなぁ」

「集金に来るくらいならやることがあるだろう」

「あのハゲた局長をしめあげて見せしめに絞首刑にするとかさ」

「一時期ニュースで騒がれたけれど」

「結局別の報道ばかりが時間を埋めてしまって」

「いつの間にか事件そのものが消えてしまった横領事件」

「刹那主義の時代のひずみとはいえ」

「それを利用する権力者の知恵もまた」

「自己中心的なエゴイズムに基づく腐敗した資本主義の一面だ」

「救いようのない時代だからこそ」

「救われない奴らが生まれる」

「この国の国民はみんな路頭に迷っているんだ」

ピンポーン……

「開いているよ」

「…………」

「これは――」

「NHKよりタチが悪い」

「いえ、なんでも」

「こんにちわ。神父さま」

「今日もいい天気ですね」

「生憎、ぼくは神様を信じていないので」

「またの機会に」

「…………」

「迷ってなんていませんよ」

「迷うくらいなら、最初からこんな仕事なんてしていない」

「いえ、こちらの話」

「なんですか?」

「秘密くらい誰にでもあるでしょう」

「ゆるし?」

「ああ、あれですか」

「陰に隠れた神父が信者の悩みを聴く小さなプライベートボックス」

「聞いたことがありますよ」

「異教徒狩りに利用したんですってね」

「正直に告白した信者にずいぶん酷なことをなさる」

「神の信徒として正しい行為だったんでしょうかね」

「第二次大戦中にもずいぶんご活躍だったそうで」

「おや、知らない?」

「善人面した法皇にでも聞いてみたらいかがですか?」

「あんたらはローマ帝国の時代からそうなのかって」

「…………」

「信仰の力とは強いものですね」

「いや、ホント素晴らしい」

「殴ってやりたくなりますよ」

「すいません。本音がぽろりと」

「神様を信じられるなんてすごいですね」

「人間の五感を超越した存在を信じられるなんて」

「とても真似出来ませんよ」

「目の前にないものを信じられるのは」

「目の前の現実を否定することと同じですからね」

「奇跡を信じて伸ばした手が」

「いつになったらつかまれるものかと」

「首を長くして待っている」

「隣で子供が泣き喚こうと」

「両親が死に絶えようと」

「その信仰の前では無価値に等しい」

「汚れない心を持つ自分はきっと神様が救ってくれる」

「老いさばらえた手が地面に触れるまで」

「じっと待ち続けるなんてぼくには出来ません」

「奇跡を信じて待つくらいなら」

「ぼくは空いている手で別のことをしますよ」

「何しろ」

「両手で出来ることは祈ること以外に」

「無限にあるますからね」

「それでは神父さま」

「ぼくはこれから仕事がありますので」

「またの機会にお会いしましょう」

「…………」

「ええ」

「縁があればまた会いましょう」

――ガチャン。

「………」

「エロイエロイレバサバクタニ」

「あんたはこの意味、理解してるか?」

END)




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