「キラー・ハンズ」
.第五話
著者 藤田拙修
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「…………」 「…………」 「ふわーあ」 「いつまでそこに立っているつもり?」 「迷うくらいならやめときなよ」 「一度しかない人生だ」 「その扉をひらく勇気が足りないなら、また明日来るといい」 「どうせ80年続く人生だ」 「踏み切るタイミングなんて、数え切れないくらいにあるだろうよ」 「友達に苛められた」 「親友に裏切られた」 「知り合いにレイプされた」 「会社にリストラされた」 「家族に見放された」 「老後を生きるだけの金がない」 「長年連れ添ってきた妻が死んだ」 「人生に悩みはつきものだ」 「ドイツのゲーテがそんな言葉を口走っている」 「諦めるタイミングなんてものは」 「ふとしたきっかけさえあれば、すぐ見つかるものだよ」 「最後の一歩がその扉」 「開けた時点で、キミはこちらがわの仲間入りだ」 「奈落へと続く一本道」 「二度と戻れない暗闇の園」 「滅びへと至るその門は大きく広い」 「とても親切に取っ手がついていて、くるりと回すとがちゃりと空けることが出来る」 「それで人生はジ・エンド」 「あっけない幕切れに終わるのさ」 「最近、客が多くてさ」 「こっちも疲れているんだよ」 「つい先刻も一人」 「その扉をくぐって」 「こちら側へと来た人が」 「ぼくの足下に転がっている」 「蛙のように無様に下を突きだし」 「血走った目で恨みがましくぼくを睨んで」 「伸びきってしまった身体が、次第に熱を失っていく」 「このからだはいずれマネキンのようにカチンコチンになって」 「木偶のように運びやすくなる」 「それを待っているんだよ」 「そうだ」 「キミも手伝ってよ」 「そうすれば、死ぬって事がどんなにつまらないことか」 「わかるだろうからね」 ――タッタッタッタッ…… 「…………」 「逃げちゃった」 「ふん」 「まぁ、いいや」 「今日も一人で片づけるとしよう」 「お金儲けも、楽じゃないからね」 (END) |