「キラー・ハンズ」

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       著者 藤田拙修

                                                  Sunday, July 8, 2007

 

 

 

 

 

 


「…………」

「…………」

「ふわーあ」

「いつまでそこに立っているつもり?」

「迷うくらいならやめときなよ」

「一度しかない人生だ」

「その扉をひらく勇気が足りないなら、また明日来るといい」

「どうせ80年続く人生だ」

「踏み切るタイミングなんて、数え切れないくらいにあるだろうよ」

「友達に苛められた」

「親友に裏切られた」

「知り合いにレイプされた」

「会社にリストラされた」

「家族に見放された」

「老後を生きるだけの金がない」

「長年連れ添ってきた妻が死んだ」

「人生に悩みはつきものだ」

「ドイツのゲーテがそんな言葉を口走っている」

「諦めるタイミングなんてものは」

「ふとしたきっかけさえあれば、すぐ見つかるものだよ」

「最後の一歩がその扉」

「開けた時点で、キミはこちらがわの仲間入りだ」

「奈落へと続く一本道」

「二度と戻れない暗闇の園」

「滅びへと至るその門は大きく広い」

「とても親切に取っ手がついていて、くるりと回すとがちゃりと空けることが出来る」

「それで人生はジ・エンド」

「あっけない幕切れに終わるのさ」

「最近、客が多くてさ」

「こっちも疲れているんだよ」

「つい先刻(さっき)も一人」

「その扉をくぐって」

「こちら側へと来た人が」

「ぼくの足下に転がっている」

「蛙のように無様に下を突きだし」

「血走った目で恨みがましくぼくを睨んで」

「伸びきってしまった身体が、次第に熱を失っていく」

「このからだはいずれマネキンのようにカチンコチンになって」

「木偶のように運びやすくなる」

「それを待っているんだよ」

「そうだ」

「キミも手伝ってよ」

「そうすれば、死ぬって事がどんなにつまらないことか」

「わかるだろうからね」

――タッタッタッタッ……

「…………」

「逃げちゃった」

「ふん」

「まぁ、いいや」

「今日も一人で片づけるとしよう」

「お金儲けも、楽じゃないからね」

END




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