「キラー・ハンズ」

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       著者 藤田拙修

                                                  Monday, January 8, 2007

 

 

 

 

 

 


――ゴゥゥゥぅぅぅ…ン

「年が明ける」

「新しい年が始まる」

「謹賀新年」

「明けましておめでとう」

「どうしたの?」

「顔色青いよ」

「気分でも悪いのかな?」

「ようこそ。キラー・ハンドへ」

「この店は死を売り物にする店さ」

「高いよ」

「なんなら、別口紹介するけど?」

「ウリとクスリ」

「安いけれど、生きていることが地獄みたいな」

「そんな安(▽やす)路地3丁目」

「地獄のあとにさらに地獄にいくのもやだけどね」

「…………」

「毎度」

「福沢諭吉の30枚」

「最近の女子コーセーってお金持ちだね」

「これ、全部お年玉?」

「冗談だよ」

「ま、金の出所なんてどこでもいいや」

「これで契約は成立」

「良かったね。こちら側の地獄に行かずにすんで」

「でも」

「むこう側は決定かな」

「人、殺しちゃったんだもんね」

「なんでわかるかって?」

「昨日のニュースに映っていたよ」

「キミのそっくりさんが」

「理由なんて、まぁ聞かなくてもだいたい推測はつくけどさ」

「ワイドショーの格好のネタだったみたいだよ」

「男前なひとだったね」

「免疫のない、キミみたいな子が引っかかるわけだ」

「手遅れだけど、一応の忠告はしておこうか」

「世の中」

「優しさの裏にはなにかがあると思うといい」

「人の願望の核は自己だ」

「心の底まで信じると、裏切られたときにその奥底までひびがはいる」

「信じることは諸刃の剣」

「安心を手にすることと、裏切られたときの憎しみは、イコールで結ばれる」

「いや」

「ひょっとすると、憎しみのほうが大きいかもしれない」

「想像力という怪物が、ひび割れた裂け目を大きく広げてゆく」

「深く、抉るように、時間をかけて」

「無垢な魂の内側に」

「一度しかない人生に、二度と修復の利かない傷を創り上げる」

「夢を見がちなニンゲンは」

「少し注意するいい」

「猜疑心、というものは、よく云う悪ではなく身を守るための」

「必要最低限な手段であること」

「そして」

「ニンゲンがどれほど傲慢でナルシスで」

「自己中心的な願望しか持たない醜い獣であるかを」

「きちんと理解するべきだ」

「さて」

「泣くのはおよしよ」

「最後くらいはきれいな乙女でいたいだろう?」

「きれいなままで死にたいなら」

「涙は拭っておくことだ」

「閻魔は血も涙もない」

「地獄という、灼熱の場所にいるのだからね」

END




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