「キラー・ハンズ」
.第四話
著者 藤田拙修
――ゴゥゥゥぅぅぅ…ン 「年が明ける」 「新しい年が始まる」 「謹賀新年」 「明けましておめでとう」 「どうしたの?」 「顔色青いよ」 「気分でも悪いのかな?」 「ようこそ。キラー・ハンドへ」 「この店は死を売り物にする店さ」 「高いよ」 「なんなら、別口紹介するけど?」 「ウリとクスリ」 「安いけれど、生きていることが地獄みたいな」 「そんな安(▽やす)路地3丁目」 「地獄のあとにさらに地獄にいくのもやだけどね」 「…………」 「毎度」 「福沢諭吉の30枚」 「最近の女子コーセーってお金持ちだね」 「これ、全部お年玉?」 「冗談だよ」 「ま、金の出所なんてどこでもいいや」 「これで契約は成立」 「良かったね。こちら側の地獄に行かずにすんで」 「でも」 「むこう側は決定かな」 「人、殺しちゃったんだもんね」 「なんでわかるかって?」 「昨日のニュースに映っていたよ」 「キミのそっくりさんが」 「理由なんて、まぁ聞かなくてもだいたい推測はつくけどさ」 「ワイドショーの格好のネタだったみたいだよ」 「男前なひとだったね」 「免疫のない、キミみたいな子が引っかかるわけだ」 「手遅れだけど、一応の忠告はしておこうか」 「世の中」 「優しさの裏にはなにかがあると思うといい」 「人の願望の核は自己だ」 「心の底まで信じると、裏切られたときにその奥底までひびがはいる」 「信じることは諸刃の剣」 「安心を手にすることと、裏切られたときの憎しみは、イコールで結ばれる」 「いや」 「ひょっとすると、憎しみのほうが大きいかもしれない」 「想像力という怪物が、ひび割れた裂け目を大きく広げてゆく」 「深く、抉るように、時間をかけて」 「無垢な魂の内側に」 「一度しかない人生に、二度と修復の利かない傷を創り上げる」 「夢を見がちなニンゲンは」 「少し注意するいい」 「猜疑心、というものは、よく云う悪ではなく身を守るための」 「必要最低限な手段であること」 「そして」 「ニンゲンがどれほど傲慢でナルシスで」 「自己中心的な願望しか持たない醜い獣であるかを」 「きちんと理解するべきだ」 「さて」 「泣くのはおよしよ」 「最後くらいはきれいな乙女でいたいだろう?」 「きれいなままで死にたいなら」 「涙は拭っておくことだ」 「閻魔は血も涙もない」 「地獄という、灼熱の場所にいるのだからね」 (END) |