「キラー・ハンズ」

      .第拾三話

 

 

 

 

 

       著者 藤田拙修

                                                  Sunday, April 12, 2009

 

 

 

 

 

 


「ヒュー」

「どぼん」

「ミサイルがまた海に落ちたねえ」

「そろそろ第三次が始まるころかな」

「戦争、なんて遠いところにあったものが」

「身近な場所で実感できる瞬間」

「イラクにバルカン、アフガニスタンにパレスチナ」

「今日もどこかで人が死んでいる」

「老人でなく、子供や若者が」

「自殺でなく、他殺によって」

「それも、爆薬や地雷、近代技術の粋を集めた感情を持たない殺戮兵器によって」

「無闇に奪われているのさ」

「可哀想にねえ」

「もういいかい」

「テレビを消すよ」

「ようこそ」

「キラー・ハンドへ」

「キミは彼らと違う」

「選択権があるんだ」

「生きるか死ぬか」

「大事なことだよ」

「”選べる”という権利はね」

「といっても」

「この部屋へ足を踏み入れた限り、行き先はひとつだけ」

「この場所にくるまでが選択の時間なのさ」

「僕は死神じゃないからね」

「自分から出かけたりはしない」

「出不精なわけじゃないよ」

「生きている限り、悩み事なんてものは消えるわけが無い」

「悩むことは生きている特権だからね」

「思う存分悩むといい」

「それがどれだけチンケな悩みだろうと」

「僕は歓迎するよ」

「受験勉強や進路の悩みと」

「今日を生きられるかどうかの切実な悩み」

「どちらも当人にとっては深刻な悩みだ」

「大局をみろだとか」

「世界に目を向けろだとか」

「えらそうなことを言う奴が必ず居るだろう?」

「彼は今の君がどれだけ恵まれているかを熱弁する」

「適当に聞いていればいい」

「とどのつまりはこういう結論さ」

「この国に生まれてよかっただろう?」

「年間自殺者の数は3万人」

「政治は崩壊している」

「自己中心的な怠慢が日常に蔓延したこの世の中を」

「どうして良かれといえるのか、僕には到底理解できかねるね」

「それでも彼はこういうのだろう」

「明日をも知れない国よりは良いだろう」

「生物はね」

「生きることが主たる根源的欲求なんだ」

「そのために必死になることは純粋に正しいことといえる」

「下手に高度に発達した情報化社会に生きているがゆえに」

「その根源的な欲求までかすんでしまう」

「生きることすら情報のひとつになって」

「目標を掲げないと生きることすら億劫になってしまう」

「それが今のキミの姿さ」

「キミには何もないんだろう」

「それもひとつの弊害だね」

「彼らは何を必死に熱弁を振るうんだろう」

「まるで他人に説明をすることで」

「自分を納得させているようにも見えるね」

「生きることは、それほどに難しい」

「さて」

「それじゃどんな死に方がいいかな」

「特別に選ばせてあげる」

「最後くらいはパッと行きたいよね」

「花火みたいにさ」

「人生の最後の晴れ舞台なんだから」

END




Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.