「キラー・ハンズ」
.第拾三話
著者 藤田拙修
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「ヒュー」 「どぼん」 「ミサイルがまた海に落ちたねえ」 「そろそろ第三次が始まるころかな」 「戦争、なんて遠いところにあったものが」 「身近な場所で実感できる瞬間」 「イラクにバルカン、アフガニスタンにパレスチナ」 「今日もどこかで人が死んでいる」 「老人でなく、子供や若者が」 「自殺でなく、他殺によって」 「それも、爆薬や地雷、近代技術の粋を集めた感情を持たない殺戮兵器によって」 「無闇に奪われているのさ」 「可哀想にねえ」 「もういいかい」 「テレビを消すよ」 「ようこそ」 「キラー・ハンドへ」 「キミは彼らと違う」 「選択権があるんだ」 「生きるか死ぬか」 「大事なことだよ」 「”選べる”という権利はね」 「といっても」 「この部屋へ足を踏み入れた限り、行き先はひとつだけ」 「この場所にくるまでが選択の時間なのさ」 「僕は死神じゃないからね」 「自分から出かけたりはしない」 「出不精なわけじゃないよ」 「生きている限り、悩み事なんてものは消えるわけが無い」 「悩むことは生きている特権だからね」 「思う存分悩むといい」 「それがどれだけチンケな悩みだろうと」 「僕は歓迎するよ」 「受験勉強や進路の悩みと」 「今日を生きられるかどうかの切実な悩み」 「どちらも当人にとっては深刻な悩みだ」 「大局をみろだとか」 「世界に目を向けろだとか」 「えらそうなことを言う奴が必ず居るだろう?」 「彼は今の君がどれだけ恵まれているかを熱弁する」 「適当に聞いていればいい」 「とどのつまりはこういう結論さ」 「この国に生まれてよかっただろう?」 「年間自殺者の数は3万人」 「政治は崩壊している」 「自己中心的な怠慢が日常に蔓延したこの世の中を」 「どうして良かれといえるのか、僕には到底理解できかねるね」 「それでも彼はこういうのだろう」 「明日をも知れない国よりは良いだろう」 「生物はね」 「生きることが主たる根源的欲求なんだ」 「そのために必死になることは純粋に正しいことといえる」 「下手に高度に発達した情報化社会に生きているがゆえに」 「その根源的な欲求までかすんでしまう」 「生きることすら情報のひとつになって」 「目標を掲げないと生きることすら億劫になってしまう」 「それが今のキミの姿さ」 「キミには何もないんだろう」 「それもひとつの弊害だね」 「彼らは何を必死に熱弁を振るうんだろう」 「まるで他人に説明をすることで」 「自分を納得させているようにも見えるね」 「生きることは、それほどに難しい」 「さて」 「それじゃどんな死に方がいいかな」 「特別に選ばせてあげる」 「最後くらいはパッと行きたいよね」 「花火みたいにさ」 「人生の最後の晴れ舞台なんだから」 (END) |