「キラー・ハンズ」

      .第拾二話

 

 

 

 

 

       著者 藤田拙修

                                                  Sunday, April 5, 2009

 

 

 

 

 

 


「毎度」

「最近多いね」

「もうすぐ桜の咲く季節だというのに」

「死に急ぐ人間の多いこと」

「せめて綺麗な花を見てからでも遅くはないとおもうんだけどねぇ」

「わからなくはないよ」

「不景気なんだろ」

「経済が不透明なんだよね」

「先行き不安」

「日雇い派遣は被害妄想バリバリの偽善者どものせいで仕事にありつけず」

「今日屋根のある場所で寝る金もない」

「棚に漫画の並んだ仮眠所だって」

「今は同類でいっぱいだ」

「明日をも知れぬ運命」

「ひょっとしたら、鉄格子の中のほうが待遇がよいかもしれない」

「そう思い立って善人ですら犯罪に走る」

「末期だねぇ」

「なるほど、それなら一念発揮して」

「こんな世界とオサラバしたいと思う」

「彼岸の世界に夢を見るのは人の性だね」

「けどさ」

「死んだ後にだって金がかかる」

「葬式代の相場は200万」

「坊主にお布施が50万」

「いつから坊主は守銭奴に」

「人の死は商売になったんだろうねえ」

「それに葬式会社はずいぶんと割りのいい仕事だそうだよ」

「なにせ、元出の5倍は儲けがでる」

「不景気な世の中で、ここまで不謹慎であこぎな商売があるのだろうか」

「死人から呪われたって文句がいえない商売だ」

「生臭坊主といわれても仕方がないよね」

「荘園はもうないんだ」

「現物でもらうしか坊主も食っていけない」

「葬式があれば残らず引き受けて」

「キックバックだってそりゃぁもらうさ」

「仏の教えより現物のほうが生きていくためには重要なんだ」

「お経だって少しくらい間違えたっていいだろ」

「何せ、偽者だってまかり通るんだから」

「そのくせお布施だけはちゃっかりとる」

「涼しい顔してぽくぽくしながら」

「念仏を唱える家の値段を見繕ってるんだよ」

「そしてこういう」

「”お気持ち”だけでよろしいので」

「ただ」

「戒名を良くたいなら少し上乗せしたほうが」

「故人も喜ばれるのではなかろうか」

「さて、どっちが喜ぶのやら」

「そういやぁ死後の世界にもお金がいるって知っていたかい」

「三途の川の渡し賃」

「払えないと渡り切れずに悪鬼夜行となるそうだ」

「はは」

「心配かい?」

「大丈夫だよ」

「どうせこの世のものなんて」

「何も持ってけやしないんだから」

END




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