「キラー・ハンズ」

      .第拾話

 

 

 

 

 

       著者 藤田拙修

                                                  Friday, March  13, 2009

 

 

 

 

 

 


「このところ競合他社さんが多くてね」

「ネットにたくさんの張り紙が貼ってある」

「仮想空間を飛び交う電子の掲示板に」

「いくつも軽快な文字でこう」

「誰かをさらってがっぽり儲け」

「強姦を経験して見ませんか?」

「ぼくと自殺はいかがでしょう」

「暗い世の中を明るく生きるのはとても大変なんだねぇ」

「明るいモニタの向こうにあるのは荒涼とした砂漠ばかり」

「世知辛いよねえ」

「ネットの闇からよくここを見つけたね」

「ここは当たり(▽沸点)だよ」

「キミの望みを叶える唯一の店さ」

「覚悟があるなら入りなよ」

「迷っているならその一歩を踏み出さないことをお勧めするよ」

「……ようこそ。キラー・ハンドへ」

「30萬」

「毎度」

「それは覚悟とは言わない」

「浅はかな愚行だよ」

「立った一度振り返るチャンスを」

「キミはもう、なくしてしまった」

「二度と陽の当たる場所に出ることはない」

「暗い地面の底が一生の寝床さ」

「なに。悪くはないだろう」

「蛙とウジと蚯蚓が友達だ」

「鬱陶しい人間じゃないだけマシだろう?」

「やかましくキミを叱ったり」

「ひどい罵声を浴びせて追いかけ回したりもしない」

「彼らは静かだ」

「静かにキミを侵食する」

「殴られたり蹴られたりして痛みに泣くこともない」

「刻み続ける鋭い針に尻をつつかれることもない」

「そこは悠久の静寂を約束する」

「さる高名なる偽予言者の経典に曰く」

「我々は元土くれなり」

「それが感情を持ったりしたから、余計なことに惑わされる」

「それは神の仕業だそうだ」

「まったく、余計なことをしてくれるよね」

「土から起こされたせいで、どれだけ罪と罰を受けねばならないのか」

「不条理な生を生きるより」

「怠惰な土の中が一番だ」

「そうだろう?」

「と、いうことで、ハイ」

「スコップ」

「これから掘りに行こう」

「わかってるよね」

「労働も、人に課せられた罰の一つ」

「誰のものかって?」

「ちゃんとぼくの話を聞いてたかい?」

「最後の労働くらい真面目にやりなよ」

「眠るのは疲れた後に限るだろ」

END




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