「キラー・ハンズ」
.第一話
著者 藤田拙修
Staday,
「やあ」 「お客さん?」 「そっか。まぁ、座ってよ」 ミシッ。 「…………」 「アンティークが趣味なんだ」 「なにか飲む? あいにくミルクしかないけど」 「はい、どうぞ」 「驚いた? こんな子供で」 「安心してよ。これでも1000年生きてるんだ」 「冗談だよ」 「いまの笑うところなんだけどなぁ」 「今日も寒いよね。今年一番の寒さだってさ。天気予報のお姉さんが言ってた」 「毎日見てるんだ。今日のラッキーアイテムは見逃せないよね」 「おじさんもさ、大変だよねぇ。サラリーマンってやつ?」 「大変だよねぇ。毎日毎日同じ時間にお出かけしてさ。毎日毎日夜遅くまで働いてさ。やりたくもない仕事をこなして、こんな寒い日まで早起きして、やみくもに日付だけが過ぎてって、あれっ、と思ったらいつの間にか三十路半。こんなはずぢゃなかったのに〜神様俺の時間をかえせ〜、みたいなカンジ?」 「…………」 「最近多いんだよねぇ。生きる意味がない〜、とか嘆いて、ここにくるひと。何人も見たけどさ、みんな同じカオしてたよ。今のあんたみたいな顔」 「くすくす。ぼくみたいなガキがなにをえらそうに。大人を馬鹿にしやがって。そんなこと考えてんだろ??」 「図星だろ。みんな考えることは同じだね。眼鏡かけてるところもみんな同じ」 「みんなしてデスマスクでもすればいいのに」 「なに? 帰るの?」 「なんか用?」 「…………」 「くすくす」 「できないだろ」 「ひと、殴ったことないんだろ」 「それが大人ってやつ? 我慢して腹にため込むの? 体に悪いよ? ストレスは長生きの天敵なんだ」 「そろそろビジネスの話をしようか」 「30萬。現金払い」 「それで契約は成立」 「……毎度」 「社会っておかしいよね」 「なんで人を生かそうとするんだろう」 「死にたいと思う人間が悪、みたいな、偽善者ばかり」 「医療技術の進歩に縋り付いてまで、生きたいと思う。そんな人間ばかりじゃない」 「ときには惨めな死を選びたいと、思う人間もいる」 「まさにあんたがそれだろう?」 「だけど、自分で死ぬだけの勇気がない」 「倫理とか、道徳だとか、周りの視線が気になって、踏切を越えることが出来ない」 「そんな人の背中をぽん、と押してやるのがぼくの仕事さ」 「勇気のない人間には、他人の後押しが必要なんだ」 「そのお代にお金を受け取る」 「死ぬ人間が、お金なんてもっててもしかたがないだろ?」 「現世への手切れ金さ」 「……さ、準備は出来たよ」 「覚悟はいいか、なんて聞かない」 「金を払った時点で、あんたの命は終わってる」 「怯える必要はないよ」 「なんで下がるのさ」 「くすくす」 「大人って、だらしがないよね」 「いざってときに、腰が引けてる」 「そこ、窓だよ」 ――うわあああああああああああああああ―― 「あ〜あ」 「ここはもう、引き払わないといけないな」 「あれだけ人目に付いちゃうと、もうね」 「この場所、気に入ってたんだけどな」 「ま、いいけど」 (END) |