「キラー・ハンズ」

      .第一話

 

 

 

 

 

       著者 藤田拙修

                                                  Staday, December 9, 2006

 

 

 

 

 

 


「やあ」

「お客さん?」

「そっか。まぁ、座ってよ」

ミシッ。

「…………」

「アンティークが趣味なんだ」

「なにか飲む? あいにくミルクしかないけど」

「はい、どうぞ」

「驚いた? こんな子供で」

「安心してよ。これでも1000年生きてるんだ」

「冗談だよ」

「いまの笑うところなんだけどなぁ」

「今日も寒いよね。今年一番の寒さだってさ。天気予報のお姉さんが言ってた」

「毎日見てるんだ。今日のラッキーアイテムは見逃せないよね」

「おじさんもさ、大変だよねぇ。サラリーマンってやつ?」

「大変だよねぇ。毎日毎日同じ時間にお出かけしてさ。毎日毎日夜遅くまで働いてさ。やりたくもない仕事をこなして、こんな寒い日まで早起きして、やみくもに日付だけが過ぎてって、あれっ、と思ったらいつの間にか三十路半。こんなはずぢゃなかったのに〜神様俺の時間をかえせ〜、みたいなカンジ?」

「…………」

「最近多いんだよねぇ。生きる意味がない〜、とか嘆いて、ここにくるひと。何人も見たけどさ、みんな同じカオしてたよ。今のあんたみたいな顔」

「くすくす。ぼくみたいなガキがなにをえらそうに。大人を馬鹿にしやがって。そんなこと考えてんだろ??」

「図星だろ。みんな考えることは同じだね。眼鏡かけてるところもみんな同じ」

「みんなしてデスマスクでもすればいいのに」

「なに? 帰るの?」

「なんか用?」

「…………」

「くすくす」

「できないだろ」

「ひと、殴ったことないんだろ」

「それが大人ってやつ? 我慢して腹にため込むの? 体に悪いよ? ストレスは長生きの天敵なんだ」

「そろそろビジネスの話をしようか」

「30萬。現金払い」

「それで契約は成立」

「……毎度」

「社会っておかしいよね」

「なんで人を生かそうとするんだろう」

「死にたいと思う人間が悪、みたいな、偽善者ばかり」

「医療技術の進歩に縋り付いてまで、生きたいと思う。そんな人間ばかりじゃない」

「ときには惨めな死を選びたいと、思う人間もいる」

「まさにあんたがそれだろう?」

「だけど、自分で死ぬだけの勇気がない」

「倫理とか、道徳だとか、周りの視線が気になって、踏切を越えることが出来ない」

「そんな人の背中をぽん、と押してやるのがぼくの仕事さ」

「勇気のない人間には、他人の後押しが必要なんだ」

「そのお代にお金を受け取る」

「死ぬ人間が、お金なんてもっててもしかたがないだろ?」

「現世への手切れ金さ」

「……さ、準備は出来たよ」

「覚悟はいいか、なんて聞かない」

「金を払った時点で、あんたの命は終わってる」

「怯える必要はないよ」

「なんで下がるのさ」

「くすくす」

「大人って、だらしがないよね」

「いざってときに、腰が引けてる」

「そこ、窓だよ」

 ――うわあああああああああああああああ――

「あ〜あ」

「ここはもう、引き払わないといけないな」

「あれだけ人目に付いちゃうと、もうね」

「この場所、気に入ってたんだけどな」

「ま、いいけど」

END




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